CTO横井聡の『プレゼンがそれっぽく見えるホワイトボードの使い方』

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ランサーズのエンジニアを率いるのは、CTOの横井聡。技術力も然ることながら、彼には社内随一ともいえる『ホワイトボードドリブン』というスキルが備わっています。会議中にホワイトボードを活用することで、場の雰囲気と参加者の気持ちを支配する技術です。

横井の『ホワイトボードドリブン』は、随所で披露されます。エンジニアのミーティングではもちろん、取引先との打ち合わせも然り。経営会議の場においても、やおら立ち上がり、その日の気分でペンの色を決め、ホワイトボードで図解を始めるのです。

そこに描かれた図を見ても、何を伝えたかったのかはまったく理解できません。それなのに、「分かった気」にさせて(説得力)「すごい発言」に感じさせて(錯覚力)会議を推進できる、『ホワイトボードドリブン』について横井本人に聞いてみました。

皆さんの仕事に活かせる部分が、多少でもあることを期待して、CTO横井聡による『ホワイトボードドリブンの極め方』をお届けします。

 

ランサーズが理想とするエンジニア組織

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横井はエンジニア採用の責任者であり、CTOでもあります。新旧エンジニアを融合させて、テクノロジーの活用でプロダクトを成長させることが最大のミッション。パフォーマンスを最大化するエンジニアの組織づくりには、並々ならぬこだわりがあるそうです。手始めに、横井が考えるエンジニア組織の理想形について聞いてみました。

横井:組織やプロダクトの課題は複数あって、コントロールすべきレバーはたくさんあります。だからランサーズのエンジニアに求められるのは多様性であり、組織としては多様な価値観を受け入れる受容性が必要なんです。ダイバーシティであり、かつインクルージョンが云々……

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早速ホワイトボードを使い始める横井いわく、これこそが『理想のエンジニア組織』の図であるとか。図式化されることで、理解できない話であるにも関わらず、納得できてしまうものです。

横井:異なる性格と才能が集まるわけなので、組織としてはトップダウンはダメ。有機的に課題解決へ取り組むことのできる、ボトムダウン型が理想なんです。

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ペンの色を変えてせわしなく描き続けるのですが、発言と絵の相関が見えないという不思議。横井の『ホワイトボードドリブン』による組織論は続くのですが、話を遮ってスキルの正体に迫ってみました。

 

ホワイトボードドリブンはサービスだ

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――ホワイトボードドリブンに絵心は必要なのでしょうか。必ずしも画力は必要ないとお見受けしました。

横井:ホワイトボードドリブン、つまりホワイトボードを利用して会議を推し進めるためには、絵の力が決定的な要素になりえません。では、何が必要なのか。

僕の中には、『ホワイトボードWay』として体系化された3つのポイントがあるんです。ちなみにですが、ランサーズでは『Lancers Way』という行動指針が体系化されています。

――そういうのが聞きたかったです。「この3つを守れば誰でもホワイトボードドリブンができる」という秘訣を教えてください。

横井:其の壱。とにかく丸と線があれば大丈夫。丸と言っても、美しい正円であることは求めません。楕円でかまわない。この図形は何かと問われたら、『……丸?』というレベルです。素人の方ほど難しい図形を描きたがる。

丸をふたつ重ねることで、つまりベン図を描きさえすれば、集合の関係や範囲を視覚的に図式化できます。何と何の集合であるか、その関係がどうなのか、といった本質的な部分に意味を求めるのはナンセンス。丸が重なっているだけで、人の目はそれらしいものと錯覚するんです。

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丸を描けるのでしたら、少し角を立てることで、四角形や三角形へのピボットが利きます。それぞれ角度をつけることで、広がりを表現することができる。何がどのように広がっていくのかを追求するのはナンセンスです。

線の使い方を覚えたら、上級者の証ですね。縦棒や横棒を用いることで、平面上に時間軸が出現する。何かに向かっている感じ、成長している感じ、花形に持っていくんだという志が伝わることを実感いただけるでしょう。

――聞くだけ野暮ですが、『ホワイトボードWay』の2つ目と3つ目をお願いします。

横井:其の弐。ノールックで描く。伝えたいという気持ちを込めるわけですから、聴衆を見なくてはいけません。きちんと理解しているか、どこが刺さっているかを常に意識する。ホワイトボードを見ながら描くようでは、まだまだ素人です。

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――ガン見していらっしゃいますけど。

横井:其の参。しゃべりながら描く。描き終わってから説明が必要だと、『何のためのホワイトボードだ?』という疑念が生まれること必至です。さらにわたしの場合、描いたらすぐに消すことを心がけています。

次の絵を描こうと思った時に、前の絵が残っていたから慌てて消すのは言語道断。プロならば『描く→消す』をワンセットにして、次の一手を最速で実行すべき。自分に視線が集まっていない隙を見計らって消しておく、その程度の配慮は必須です。

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自分のタイミングと聞き手のタイミングがすり合うまでは、描く前に消すくらいがちょうど良いことも申し添えておきましょう。

ホワイトボードドリブンはサービスでありエンタテイメント。オーディエンスを待たせちゃいけません。この3つを肝に銘じていれば、会議だろうがプレゼンだろうが、はたまた家庭での会話もホワイトボードドリブンでぐいぐい推進していけます。

――丸と線、ノールック、しゃべりながら描く、すぐに消す……4つありましたね。

 

ホワイトボードと相思相愛になるきっかけ

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――特異な自論をお持ちですが、そもそもホワイトボードとの出会いはいつ、どんなシチュエーションだったのでしょうか。

横井:ホワイトボードドリブンへの目覚めの瞬間は、目を閉じなくても鮮明に思い出せます。SI時代に、とても悲惨な炎上案件を巻き取る羽目になったことがあったんです。信頼しているメンバーたちに、尻拭いのような業務をさせる事実を伝えるのがとてもつらかった。

どう告白しようか悩んでいるわたしの前に、ホワイトボードがたたずんでいたんです。『これだ!』と天啓が降りてきた瞬間ですね。赤いペンを手に取り、力強くこう書いたんです。『明るく、楽しく、元気よく』と。その下にバグ曲線をそっと描き添えました。

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ぴりぴりムードが一気に和んで、すらすらと惨状を告げることができましたし、その場にいた誰もがポジティブに受け止めてくれた。これがチャットの無機質なテキストだったら、何人もの仲間が声を荒げていたでしょう。手書きの文字だったからこそ、わたしの人間性がにじみ出て、心にまで届けることができたんです。

――そうですか。さっきからペンを握りしめていますが、やはりこだわりをお持ちで?

横井:いついかなるときにホワイトボードを使うかわからないですよね? 顧客のオフィスで急遽、『ホワイトボードドリブン』を発動することもあります。そのときに、『いつもとペンが違うんで……』と言い訳するのは三流。『横井筆を選ばず』ですよ。

 

ホワイトボードは己の心を写し出す

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――ホワイトボードへの思い入れ強いわけですから、他人の利用方法にも気が回ってしまうのでは?

横井:ぞんざいな扱いをされると、ちょっと心がささくれ立つ部分はありますね。お互いが不幸になりますから。ボードは耐久年数が短くなるし、本人の手は汚れるっていうね。良いものなんですが、認められる人にだけ使ってほしいという気持ちがありますし、同時に、『まだ自分だけのものにしておきたい』という器の小ささも見え隠れするんですよ。

――面接に来た候補者のかたがホワイトボードでプレゼンを始めたら?

横井:複雑ですね。『ここは俺の戦場だ』という気持ちが強いので。とはいえ、やはり他人の使い方には興味がありますよ。ホワイトボードという盤面での戦い。囲碁や将棋、チェスのように、人によって違う戦略・戦術を体感したいという気持ちがあります。

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例えばランサーズの取締役に曽根というのがいまして、彼は実に芸術的なホワイトボードの使い方をするタイプ。盤面をぎっしりと埋め尽くす、綿密に描き切る戦い方なんです。ポリシーの違いから、コンフリクトがあるかもしれません。

一方で代表の秋好は、経営会議でときおり見せるんですが、文字を多用します。それでいてスピードが落ちないのは、相当な鍛錬を積んでいるんだろうと。彼の戦い方はリスペクトに値しますね。

――最後に。横井さんにとって、ホワイトボードとはなんですか? 

横井:自分の心を写し出す存在です。ホワイトボードって、ただの道具じゃないですよね。自分の生き方や心が反映されている、パートナーのようなもの。使うときは『ホワイトボードWay』にあるように、ファジーに暗号化することが多いです。でもホワイトボードがあるから言語化や視覚化が可能で、制約のある中でアイデアを出して、偶然の産物を生み出してくださいます尊い存在ですよ。

 

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 途中からホワイトボードに板書をしなくなったのは解せませんが、熱弁をふるい切ってくれました。「それじゃあ」と言って席を立つ横井。部屋には、熱を帯びたペンと描き散らかしたホワイトボードが残されていたことを書き添えておきます。